なぜラボグロウンダイヤモンドは過小評価されるのか― “本物”という幻想をめぐって ―
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- 10月27日
- 読了時間: 3分
更新日:11月9日
執筆者
Amu Kawamoto (IGI Lab-Grown Diamond Professional Training 認定)

1. ラボグロウンダイヤモンドの価値は“科学”ではなく“構造”に左右されてきた
ラボグロウンダイヤモンド(Lab-Grown Diamond)は、化学的にも物理的にも天然と同一の結晶構造を持つ。 それにもかかわらず長年、「模造品」「代替品」と呼ばれてきた理由は、科学ではなく**経済構造**です。
天然ダイヤは、大手鉱山企業が供給をコントロールし、「希少性」というストーリーで市場を支配してきました。つまり、ラボグロウンダイヤモンドの価値が過小評価されてきたのは、科学的な差ではなく社会的な仕組みによるものなのです。
2. 「希少性」という神話がつくった価値の壁
ダイヤモンドの価値を形成したのは、1947年のDe Beersによる広告「A Diamond is Forever」。 この言葉が、愛=永遠=天然ダイヤモンドという文化的信仰を世界に広めました。
しかしいま、科学技術によって同等の輝きを倫理的かつ合理的に作ることが可能です。ラボグロウンダイヤモンドの価値は、もはや「希少性」ではなく「透明性」と「誠実さ」で測られる時代に入りました。
3. 「人工=不自然」という誤解が生む偏見
多くの人が「人工は自然に劣る」と考えがちですが、ラボグロウンは地球内部の生成環境を科学的に再現した**自然の理解の結晶**です。
HPHT法やCVD法で作られるダイヤモンドは、まさに“進化した自然”の姿。 人工であることは“偽物”ではなく、**人間が自然を理解し、美を再構築できる知性の証**です。
4. 「価値を自分で決める」時代の消費者へ
SNSや口コミの普及で、消費者はブランドの言葉より**自分の感性**で判断するようになりました。 ラボグロウンダイヤモンドを選ぶ人々は、「安いから」ではなく、**納得できる価値を選びたい**という意志を持っています。
これは単なる価格判断ではなく、「自分が良いと思うものを選ぶ」という現代的なラグジュアリーの形です。
5. “本物”とは誰が決めるのか
天然とラボ、その違いは科学的ではなく、社会が与えた“意味”の違いです。 円山プレシャスのブランドビジュアル「虚像の真実」は、同じダイヤが「本物」と「偽物」に分けられて映る構図で、 価値の主観性を静かに問いかけています。
6. これからのジュエリーが持つべき「透明な価値」
これからのジュエリーに求められるのは、「どこで、どう作られたか」を説明できる**透明性**です。 ラボグロウンダイヤモンドはその象徴。 倫理性、サステナビリティ、トレーサビリティを備えた「誠実な美」は、次代の価値基準になっていきます。 <h2>7. 価値は再び、語りによって変わろうとしている</h2> ラボグロウンダイヤモンドの価値が投げかけた問いに、今、天然ダイヤの側からも応答が始まっています。
2025年、De Beersは新たなキャンペーン「Desert Diamond」を発表。かつて“価値が低い”とされたブラウンダイヤモンドを、「唯一無二の個性」として再定義しました。出典:JCK Online – De Beers launches Desert Diamonds (2025)
これはラボグロウンがもたらした価値観の変化に対する天然ダイヤモンド側の再定義の動きでもあります。“完璧”ではなく“多様性”を認める流れ――。その価値の変化を、次の記事「デビアスが語る『不完全の美』──ブラウンダイヤモンドが映す“価値の再定義”」で詳しく掘り下げます。



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